1. 松代城の概要と歴史的意義

松代城は、長野県長野市松代町にある日本100名城第26番の輪郭式平城です。元々は「海津城」と呼ばれ、武田信玄によって川中島合戦の拠点として1560年頃に築城されました。江戸時代に真田信之が入城してからは「松代城」と改名され、真田氏10代250年間の居城として繁栄しました。甲州流築城術の特徴を強く持つ武田氏築城の代表的な城の一つで、千曲川を背後に控えた天然の要塞として知られています。

2. 武田信玄と川中島合戦の拠点

松代城の築城は、武田信玄の信濃侵攻と密接に関わっています。北信濃の豪族を庇護する越後の上杉謙信との軍事衝突に備え、信玄は川中島地域の戦略拠点として海津城の築城を命じました。伝承では山本勘助が築城を指揮したとされ、永禄4年（1561年）の第四次川中島合戦では武田軍の本拠地として重要な役割を果たしました。千曲川の流れを外堀とする天然の要塞で、当時の戦略的価値は計り知れないものでした。

3. 甲州流築城術の特徴

松代城は甲州流築城術の特徴を強く持つ城郭として知られています。本曲輪を三方から二の曲輪が囲む輪郭式の縄張りで、甲州流の特徴である丸馬出と三日月堀を有しています。石垣は地元で採掘された柴石や皆神山の石を使い、自然の形のまま積む野面積みで築かれています。平城としては駿河江尻城、平山城としては信濃岡城が松代城と構造的に非常に似通っており、武田氏の築城技術の系譜を示す重要な城郭です。

4. 城名の変遷と江戸時代の城主交代

関ヶ原の戦い後、海津城は数度の城主交代を経験しました。1600年に森忠政が入封すると「待城」（まつしろ）に改名され、1603年に松平忠輝、1616年に松平忠昌、1619年に酒井忠勝と目まぐるしく城主が変わりました。この忠昌領主時代に「松城」へと改名され、1622年に真田信之が上田城から移ってきてからは「松代城」として定着しました。この城名の変遷は、江戸幕府の政治的配慮と地域統治の安定化過程を物語っています。

5. 真田氏と松代藩の統治

1622年に真田信之が13万石で入城してから、松代城は明治維新まで真田氏の居城となりました。信之は関ヶ原で西軍についた父昌幸・弟信繁（幸村）とは対照的に東軍につき、徳川家康の信頼を得て上田から松代に移封されました。真田氏は10代にわたって松代を治め、藩政改革や殖産興業に力を注ぎました。特に8代藩主真田幸貫は老中として幕政にも参与し、松代藩の地位向上に努めました。

6. 城郭構造と防御システム

松代城は本丸を中心に二の丸、三の丸、花の丸が配置された輪郭式平城です。北側に千曲川、東と南には大きな堀を持つ守りの固い城で、石垣は本丸や城門にのみ使われ、その他の曲輪は土塁で囲まれています。本丸内部は非常にコンパクトで大きな建物は置かず、真田屋敷や政務所は三の丸や花の丸といった外郭に築かれました。戌亥櫓からは千曲川の監視ができ、水害対策も重要な防御要素でした。

7. 佐久間象山と松代の教育

江戸時代後期の松代は、佐久間象山を輩出した教育の地としても知られています。象山は松代藩士の家に生まれ、西洋兵学を学んで開国論を唱えました。松代藩では文武学校（現存）が設立され、藩士の教育に力を入れていました。また、明治維新期には真田幸民（幸教）が戊辰戦争で官軍として活躍し、廃藩置県まで松代藩主を務めました。この教育重視の藩風が、近代化を支える人材を多数輩出する基盤となりました。

8. 明治以降の変遷と史跡指定

明治維新後の廃城令により松代城は廃城となり、建物は取り壊されましたが、石垣や土塁は良好に保存されました。1904年に真田幸正が本丸跡地を遊園地として開放し、1921年には「松代開府300年祭」が行われました。1981年に本丸を中心とした城址と真田邸が国の史跡に指定され、2004年には太鼓門、堀、石垣、土塁などが復元されました。2006年に日本100名城に選定され、現在も復元工事が継続されています。

9. 復元整備と現在の見どころ

現在の松代城では、2004年に復元された太鼓門が最大の見どころです。本丸正面に位置する最も大きな門で、藩士に登城時刻を知らせる太鼓が備えられていました。北不明門は千曲川河岸に通じる裏門として復元され、戌亥櫓台の石垣も修復整備されています。本丸内部からは川中島平を一望でき、桜の名所としても親しまれています。2023年からは太鼓門前橋の架け替え工事が行われ、今後は石場門の木造復元も計画されています。

10. アクセスと周辺の真田史跡

松代城へは長野駅からアルピコ交通バスで約30分、「松代」バス停下車徒歩5分でアクセスできます。周辺には真田氏ゆかりの史跡が充実しており、真田邸（国重要文化財）、真田宝物館、文武学校、象山神社などが徒歩圏内に点在しています。100名城スタンプは真田邸前に設置され、御城印は真田宝物館北隣の信州松代観光協会で購入できます。また、川中島古戦場も近く、武田信玄と上杉謙信の激戦地を合わせて見学することで、より深く歴史を理解できます。